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術士と精霊の結論・1



 部屋のソファーに腰掛けて、四属性精霊が真剣な眼差しを手元の本に向けている。精霊が人界の書物を読むとは知らなかったが、以前その四属性精霊本人――マキシに聞いてみた所、それは精霊にとって特に変わった習慣ではないとの事だった。全てはよりよく主人に尽くす為、精霊世界で学びきれなかった人間世界の知識を、召喚後も弛まず学ぶのはごく当たり前のことであるのだと。成程精霊も色々大変なんだなあとその時は普通に感心したものだが……
 私はすとんとマキシの目の前にしゃがみこみ、こいつの読む本の表紙を下から見上げた。
『失敗しない! 初kiss&初H☆』
「何読んでんじゃ貴様はー!!」
 すぱーん!
 と、立ち上がりざまにマキシの手をはたき上げるとその有害図書はくるくると大仰に回転しつつ弧を描いて飛んでいった。悪霊退散!
「何をなさるんですか、唐突に」
「何なさるんですかじゃねー! 何だその本は!」
「何って……書物というのは人間世界に蓄積された知識の源泉と認識しておりますが?」
 しゃあしゃあと言いながら、マキシはソファーから立つと離れた所に落ちた本を拾い上げ、丁寧に埃を払った。
「一般論としての定義を聞いてるんじゃない! 大体、どっから拾ってきたんだそんな馬鹿げた本!?」
「勿論、アカデミーの図書館の蔵書ですよ。先程ミカエラ様がお命じになられた資料を借りに行きました折に、たまたま見つけまして」
「私の名前で借りて来たんかい!」
 精霊が個人で利用許可証を持ってる訳ではないので、精霊自身が本が読みたけりゃ主の名前で借りるしかないが、それは特に問題視されることなく黙認されている。いやな、私だって別に普通の本なら何ら文句はない、普通の本ならな。しかし何でそんな本! 別に誰も見やしないだろうが、その本の貸し出し履歴に一生名前が残ると思うとあああああ!……そもそも誰だそんな本を図書館に入れたアホは! どういう婉曲な嫌がらせだよ!
 頭を抱える私を、マキシはわざとらしいまでに気遣わしげに覗き込んでくる。
「しかし、精霊世界ではこの手の知識は習得することが叶いませんでしたので、今から急いで学びませんことには我が主にご迷惑を掛けてしまうこともあるかと思い……」
「学ばんでいい! 迷惑なぞ掛からん!」
 激昂して叫ぶと、マキシは真顔で私を見つめた。
「……それはつまり、ミカエラ様ご自身が逐一この私めに手解きをして下さるということでしょうか?」
 端正な顔がじっと私を見る。
 手解き……手解きってあれですか、俗に言う手取り足取り腰取りって奴ですかってだあああああ!
「すっ、するか馬鹿ああ!!」
 ていうか出来るかああああ!! 私だって知らんわああああああ!!!
 私はマキシを突き飛ばすと、半泣きで部屋を飛び出した。うわああああん! マキシの変態えろ精霊ー!



「おや。からかい過ぎてしまいましたかね」
 ミカエラ様の出て行かれた廊下に目を向けながら僕は独りごち、開け放たれたままだった部屋の扉を静かに閉めた。精霊たる者、常に主のお傍にいることが望ましくはあるが、アカデミーの学舎内にいる分には危険はないので追うのは控えておく事にする。普通に追っても尚必死の形相で逃げられるだけだろうし、本当に緊急であれば瞬時に主の元に参じる術はある。……尤も、精霊の心得を語るのならば、主をからかうこと自体が端から間違ってはいるのは言うまでもない。
 本当にあの方は愛らしい。
 羞恥の余り真っ赤になった主のお顔を思い出すとついつい頬が緩みそうになってしまうがそれを苦心して堪え、僕は手に持ったままであった本をテーブルの上に置いた。念の為、別の返却予定の本を重ねて目に付きにくいようにしておく。……しかし、この本を目にした主がどのような反応をなさるか楽しみで借りてきたのではあったが、あそこまで激甚な反応を示されるとは少し予想外だった。これは(僕自身、何故このような本がここの図書館に入っていたのか甚だ疑問に思う所ではあるが)恋に興味を持ち始めた思春期の少年少女の初々しい知的好奇心に訴求する、若年向けの娯楽書籍に過ぎないと思うのだが……。この程度の代物であの反応とは初心にも程があるのではないだろうか。
 想いを告白してから早二ヶ月程経つが、ミカエラ様と僕の間には、いまだ何の進展もなかった。
 僕としては別に関係を焦る気は無いのだが、少し不安を持っている事も否定は出来ない。そもそも、僕の想いを受け入れて下さった――容認して下さったとはいえ、ミカエラ様からすれば、意に沿わぬ契約を盾に恋人関係を迫られているようなものだ。態度から察するに決して嫌われてはいない筈だが、果たしてミカエラ様は僕の事をどのように思って下さっているのか……
「意識を覗いてくればいいじゃないか」
「それは人間には失礼に当たるんですよ」
 何の前触れも無く頭の中から聞こえた声に、僕は特に驚くこともなく、即座にそう返した。
「珍しいですね。貴方は、人間世界では意識への介入は苦手だと仰っていませんでしたか」
 姿なき声の主は、馴染みの火属性精霊だった。本来、肉体という形ある器を持たぬ我々精霊は、会話に肉声を使う事も当然なく、意思の疎通はこのように直接他者の意識に入り込む事によって行うのだが、人間世界に召喚され実体を持った場合、その行為には多少の労力が伴うようになる。僕にとってはその労力は、無意識に行う呼吸と意図的に行う深呼吸程度の差異しかないのだが、精霊によっては全力疾走の直後に腹式呼吸で歌を歌う程に困難となってしまう者もいる、らしい。僕はそれに該当しないしそんな事をした事もないので実感は掴めないが、ともあれ、この火属性精霊もまたそういう体質だった筈だと記憶していたのだが。
「苦手だよ。一人でやるんじゃしんどいから、水のにも手を貸してもらってる」
「おや」
 一言も喋っていなかったので気がつかなかったが、言われてみれば確かにもう一人、水属性精霊がそこにいる――勿論物理的に存在するわけではなく、意識として――ことに気がついた。彼女は、我が主のご友人のマイナ・トロア魔術士の使役精霊だ。
 ぺこりとお辞儀をしてきた彼女の意識に、こちらも意識だけで目礼をしてから改めて火属性の彼に問う。
「尚更どうしたことですか、これは。何か変わった事でもありましたか」
 意識による意思疎通は、言葉を介在するそれとは違い、あらゆる感覚、そして感情までもが漠然でありながら実に直接的に伝達される。言語化されていない彼らの意識が伝えてくる感情の色を僕は敢えて明確に人語に変換しながら考察した。これは困惑、不安、恐怖、怯え。余り関わりたくない厄介事の気配をひしひしと感じるが、こうしてわざわざ声を掛けてきた以上は関わりたくないと言ってはいられない事態なのだろう。
 二人のうちどちらの思考だろうか、僕の言葉に誘導されるようにある精霊の姿――視覚的な容姿ではなく存在の匂い、或いは色、と言うべきだろうか。人間世界にはない感覚であるので、このニュアンスを人語に変換することは難しい――が思い浮かべられ、彼らが伝えんとしている情報よりも先にそれが僕にも見えた。……その時点で、僕は発生した問題の概要を把握した。
「お前が人間と恋愛してる件。あれ、もう伝わってるぞ」
 そんな想像を裏付けるように呟かれた声に、僕は小さく嘆息した。



 半泣きで友人のマイナの部屋に駆け込んだら、一言目に「ん、どうした? 犯された?」という想像を絶する暴言を吐かれたので速攻でその場からも走って逃げた。その次にどこに駆け込めばいいものか全く思いつかなかったので(他の友人も大概こいつと似たり寄ったりの反応を返すであろう事は疑う余地もない)、結局私はアカデミーの廊下を一人とぼとぼと歩いていた。
 全くあいつはなんて破廉恥な精霊なんだ。危険極まりない野郎だ。相談する相手がいないので、自分の中だけで怒りを再燃させて、脳内討論を開始する。
 けしからん。実にけしからん。……だがしかし、どれだけ書物を用いてけしからん妄想を膨らませた所で、奴は私の許し無しにそれを実行することなどしない。様々な曲解を利用して主人の命令を回避する精霊の裏ルールを用いれば可能であったとしたって、奴は絶対に、冗談の域を超えて私の意に添わぬ事はしないだろう。だったら実質危険はないではないか。ああ、そうだとも。それだけは分かっている。
 ……ってそれだけ分かってるなら十分じゃん。
 討論はいまいち発展することなく勝手に完結してしまい、私は思わず嘆息した。だんだん、何が問題であったかすらも分からなくなってきてうんうん考え続けた結果、結局自分の不慣れな話題でなす術もなくからかわれたのが悔しかっただけであろうという結論に辿り着いた。ああつまんねえ。非常につまんねえ。
 あの手のからかいに対抗するには私もその手の話題に対する耐性をつけるのが最上と思われるが、正直、マイナとかと長年付き合って耐性がつかない時点で私には多分無理なんだろうと思えた。未検証ではあるがきっとこの手の話題に対する得手不得手は魔術と一緒で生まれながらの素質の問題なのだ。ってことは私は一生このままか。あいつを使役してたら私は一生からかわれっぱなしなのか。二十代で上級研究員の学位を取っても、三十代で助教授になっても、四十代で教授になっても、五十代で……あいつのプランなら元老院入りかアカデミーの学長になっても……あ、話は逸れるが最近の私は研究職から外れない範囲でなら権力を持つのもいいだろうと思い始めている。政治的な部分はあいつが色々上手い事取り計らってくれるそうだから。……ともあれそんなとことんまで偉くなってもあいつにからかわれ通しの人生は未来永劫続く訳か。ああ、くそ。最悪じゃないか!
 自分でも知らないうちににやにやとしてしまっている事には気付かずに、私はきっとまだ部屋にいるであろう性悪精霊に向けて強く罵倒の念を送った。

 その後、あいつをぎゃふんと言わせる為にはどうしたらいいかという作戦を練り続け、その26・寝ている間にあいつの綺麗な銀髪をドレッドヘアに仕立て上げるまで考えついた所で、私は、ふと学舎内の外れの棟まで来ていたことに気がついた。別に用事があったわけではなく、完全に無意識の結果である。私の散歩は頭での思考を経ず、足のご機嫌に全てお任せしているので、行き先は私自身にすらも全く予測不可能なのである。自分ですらそうなのだから他人から見れば失踪と同じようなもののようで、何か用事があった時、散歩中の私を探すのは中々に困難らしくよく怒られたものだが今はマキシがいるのでその問題は発生しない。マキシがいればどこにいようと他の精霊経由ですぐさま意思の疎通が可能であるし、マキシは私と共にいない時もどういう仕組みであるのか私の居所を完全に把握しているらしい。便利な魔法だが私のプライバシーとか気にする気すらさっぱりないだろそれ。まあいいけどさ。トイレや風呂に入っているのを知られようとその姿が直接見えるわけではないのなら……、って、そうなんだよな? み、見てないよな??
 今度聞いてみよう、とほんのり恐怖を覚えながらも決意しつつ、私は実験棟と呼ばれる建物内をてくてくと歩き続けた。その名の通り、魔術の実験を行う用途の棟で、そこそこ広めに仕切られた部屋が真っ直ぐな廊下に面して幾つも並んでいる。
 人間が魔術を行使するには、基本的には魔法陣を描く為のある程度の広さと、風や飛来物、暴れ牛等の外的要因で術を阻害されない静穏な環境、あとごみごみしてないことという条件が必要だ。これらの条件を満たすのは生活空間である自室では難しい為、それ用の実験室が用意されている。ちなみにごみごみしていないこと、というのは魔術そのものの必要条件ではなく、術の作用で発生する突風などでいろんな物を吹っ飛ばし、周辺をしっちゃかめっちゃかにするという大災害を齎す危険があるからだ。まあ真面目に言えば、火災などを起こす危険性もあり得るし。
 手近にあった個室のドアの、対衝撃用の強化が施された硝子が嵌め込まれた小さな窓から何気なく中を覗く。何で脆い硝子をわざわざ強化して嵌めるのかという謎はさて置いて、その透明の板越しに観察すると一人の魔術士が何らかの魔法陣を前にしてごにょごにょと呪文を唱えているのが見えた。一見した所年齢も若く(つっても私よりは上だろう)、精霊を従えていないので、研究員ではなく正研究員に師事している見習いか、聴講生かもしれない。その魔法陣に何気なく視線を移すと……ん? 何か妙に見覚えがあるような……
 と、二秒程考えて思い至る。見覚えがある筈だ。あれは私が作った水属性召喚魔法陣……のつもりだった四属性精霊召喚魔法陣ではないか。マキシを喚んだ、アレである。
 それぞれの研究者が独自に開発した魔法術式は、その詳細を秘密にしておくことも、公的機関に登録して権利金を取ったりすることも出来るのだが、私は自作の術式は内容完全オープン・使用フリーで公開している。金には大して興味がないし、私の術式を利用、研究する事で他人がもっといい術式を組み上げれば、それは巡り巡って私にとってもメリットになるからだ。あの四属性精霊召喚陣も、暫くの間は(論理的には失敗作であったので)検証の為に秘匿していたが、それが済んだ後は公開している。まあこれほど極端に高い魔力量を要求する魔法となると、実際には誰も発動する事も出来ないだろうが、勉強の材料にはなる筈だ。自分で言うのもなんだが私の魔法陣は可読性を重視していて大変見やすい仕様となっている。規模もかなりでかいし使用している呪語も難度の高い物が多いが、整然と構造化されているのでしっかり仕様書や魔術書とにらめっこすれば、少なくともこのアカデミーに入れる程度の奴なら多分誰でも解読出来ると思う。複雑な術式を複雑なまま絡まり合ったスパゲッティのようにだらだらと展開効率のみを重視して書き殴る旧態依然とした記述法を徹底排除し、汎用性を重視して機能ごとに分割された魔法術式は解読し易く、かつ再利用も容易! これぞ芸術! これぞ機能美! 術式の部品化こそが人類の魔法文化発展の未来を支えるのである! さあ学べ! 存分に学べ! 若人(多分年上)よ!
 ぐっと拳を握って内心でエールを送りつつ窓の外から眺めているうちに、研究員の魔術は起動段階に入っていた。自前の魔力があまり豊かではないのか、かなーりゆっくり目だが、魔法陣の端から徐々に魔力が浸透して行き、陣内の魔力が励起していく。
 魔法術式に魔力が通い、起動していくその様子を見る度、私は花が綻び、開く瞬間を連想する。手際の良い人が小規模な魔術を行うならば、花というより花火のように、ひゅんぱってな具合で発動するものだが、大きな魔術を執り行う場合はそれはまさしく荘厳な儀式に一変する。一枚一枚の花びらを、植物が、力を振り絞るように、ゆっくりとゆっくりと開いていくイメージ。或いは鳥の雛が卵を内から割って出てくる姿と例えるのも似つかわしい。固唾を呑んで、息を潜めて、このいとおしいものを見守りたい――

 その、いとおしいものが。
 突如、硝子窓の向こうで、牙を剥いた。

 それは一瞬の出来事だった。
 ゆっくりと育っていた蕾が、何の前触れもなく、空気を勢いよく吹き込まれた風船のように不自然に大きく膨らんだ。
 刹那。膨大な熱量を蓄えたそれが爆ぜ割れる。
 暴走。
 ――まずい!
 真っ先に思ったのは、室内にいる研究員の事だった。実験室の壁や扉には万一の事故に備えて防爆対策を施してあるが、それでは外は良くても中にいる研究員は無事では済まない。一応室内に退避壕は用意してあるのだが、果たして退避が間に合うか。咄嗟に引き戸に手をかける――無論、爆発を前にして防爆対策を施してある扉を開放するだなんて狂気の沙汰だが、私はこの瞬間にそれに思い至る事が出来なかった――が、中から鍵をかけてあるようで、扉はがつんと硬い手応えを返すのみだった。ええい! 小窓にカーテンも引かんと何故鍵だけ掛ける!?
 声すら上げる事が出来ない程の一瞬の時間の中で私は確かにそう毒づき、窓の中の景色に目を戻した。
 制御の箍を外された魔力は、そのエネルギーを圧倒的な破壊力と変えて、無差別に周囲に撒き散らす――
 筈であった、のだが。
 私はそこで、信じられない光景を目の当たりにした。
 爆発を起こし、一旦四方八方に広がりかけた魔力が、突如時間を巻き戻すかのようにぐんと収束したのである。しかしその威力は消滅したのではなく、何らかの、爆発すらも上回る強大な力で抑え込まれたように見えた。熱量を帯びた魔力は、見えざる手に絞り上げられるように螺旋を描いて魔法陣上のみにその力を放出している。それはさながら魔法陣から立ち上る一本の灼熱の竜巻であった。
 しかしその現象が起きたのもまた数秒に満たないつかの間の事だった。更に次の瞬間、その炎熱の竜巻は、蛇が鎌首を擡げるようにぐいんと折れ曲がり、こちらに頭を向けた。
 頭。ただ感性のみで、その比喩に至った所で私は思い違いに気づく。
 これ、竜巻じゃなくて、
 ――竜。
 螺旋を描く胴体を持つ炎の竜が、明確な敵意を持って私を睨み据え、そのあぎとを大きく開いた。そして無音の咆哮を上げ、一条の矢の如く、こちらに向かって真っ直ぐに突き進んで来る。
 私は反射的に扉から離れていた。竜の突進を前に、防爆処理を施されている筈の扉が、紙で出来た盾のように軽々と粉砕するのが見えた。そのまま竜は、勢いを全く減じることなく迫り来る。その速度の前には、運動神経皆無な私が一瞬で取れる程度の距離などあってないようなもので――
 肌をひりつかせる熱。
 眼前に迫る竜の牙。
「ミカエラ様ッ!!」
 突然、私の耳に飛び込んできた、悲鳴のような、――私の精霊の絶叫。
 そして、竜の顔に代わって視界を埋めた、私を護る背中。
 それらが五感を凝縮したような、どれが視覚情報でどれが聴覚情報であるかすら咄嗟には判別出来ない程の高密度な感覚の中に、断片的に残る。
 今度こそ、エネルギーが明確な攻撃性を持って炸裂した。
 周囲を余さず舐め焦がす爆炎。それに食らいつく水の竜。炎と水が相殺し合い、もうもうと視界を埋め尽くす水蒸気。
  
 再び目を開けた時、私の前に、私を護る背中はなかった。
 ただ――
「マキシ…………?」
 御伽噺の絵本の中からやって来たような美しい銀色の髪をした、いつでも小奇麗に身なりを整えていた、殴りたくなる程に麗しい姿であった精霊が。
 全身から血を流し、襤褸切れのような無残な姿となって、私の足元に倒れ伏していた。

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