女神の魔術士 Chapter1 #9

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 事前に会場入りした護衛班は、実際に夜会が開始される午後九時以降は、全人員とも内部勤務に当たる手筈になっていたらしいことを、ウィルは先刻行われたミーティングによって初めて知った。多分、前もってそのような通達はあったのだろうが人間、どれだけ注意を払っていようとも聞き漏らしという失敗をしてしまうことはあるものである。ミスというミスをいちいち神経質に叱責する人間というものが世の中には少なからずいるが、誰しも起こしうる失敗を鬼の首でも取ったように責め立てるのはそのような人種が演出したがっている思慮深さとは対極に位置する実に短慮かつ稚拙な愚行であり、このような失敗を仮に部下が行ってしまった場合、上司はこのように、優しく諭すべきであるとウィルは考える――「メモ取っとけ」と。
 とはいえ、今回この件に関して彼は、別段上長から叱責を受けたという訳ではなかった。それは単純に、これが他の誰に被害が及ぶでもない、そして通常であれば自分にさえさほど影響があるわけではない失敗であったからに他ならなかった。
 しかし、この失敗はウィルにとって非常に痛いものだった。
 何の為に午前中から会場入りをする班に志願したのか。それはソフィアを避ける為である。それに他ならない。だというのにこのミスは、その計画を根底から見事にひっくり返すものだった。彼女を避けるというのには彼女に話しかけられる機会を持たないようにするだけではなく、彼女とタリス・ブラウンの姿を見ることなく過ごすという部分から含みたかったのである。数百人規模の夜会でたった一組を一度も視界に入れずにやり過ごすというのは簡単に出来るようで実は少々難しい。延々と床とにらめっこをしていて良いのならば不可能ではないだろうが、今回は職務上、視線は常に周囲に巡らせていなければならないのだ。しかも、彼女ほど――いい意味でも悪い意味でも目立つ女性ならば。嫌でも見つけ出せる自信が、ある。
 流石にパーティ会場に明らかに傭兵と分かる連中がたむろしている光景は主催者側としても遠慮したかったのか、濃紺のスーツの各所に白いラインが入った、警備員の制服が内勤全員に配られた。揃いの服装に袖を通せば粗野な男共の集団もそれなりに組織化された部隊のように見えるのだから不思議なものである。その服装のベルトに警棒と、細身の剣を差した標準の格好で、ウィルは陰鬱な溜息を喉で押し殺しつつ会場を眺めていた。時間は開会時刻を少し過ぎた所――食事会がメインのパーティーであれば時間厳守が普通だが、舞踏会ならば遅刻を咎められることもなく、今だ続々と賓客が会場入りをしている時間帯である。既にホール内に入り談笑している客の中に、ソフィアたちの姿はない。ウィルが見落としたという可能性もないわけではないが、まだ到着していないだけであろうと彼は思った。自分が彼女を見落とすはずがない。
(……見たいんだか、見たくないんだか。どっちなんだろうね、俺は……)
 見たくない会いたくないと心の中で念じつつ、結局はその姿を捜し続けている自分に気付いて苦笑を漏らした――その時。
 唐突に。
 途絶えぬはずのざわめきが、静寂に取って代わられる。
 少し前にもどこかで経験した記憶のあるその奇妙な現象に、ウィルは思わず、エントランスホールから会場の大広間に続く、大仰なこしらえの扉に視線を向けていた。

「……女神よ……」
 まさに女神に対して捧げる祈りのような、畏れさえ含んだ誰かのそんな呟きに、ウィルは苦笑を深める。人垣の向こうにある「女神」の姿は未だ彼の目には映ってはいなかったが、まさにそれは女神。女神に相違ない存在であるに違いなかった。
 渦中の人物が会場に達するよりも先に、既に出来ていた人垣は更に人を呼び、一時、出入り口付近が混雑する。その流れを整理するのは地味ながらも警備員の役割であったので、その職務を全うしようとウィルは壁際から離れた。が、近づいてみると別段、ウィルの手は必要としていなかったらしいことが知れた。他の警備員が同様の作業に当たっていたわけではない。人垣は誰に注意されることもなく自然に、たった今来場した二人に道を譲っていた。
 それは、当然の礼儀であったのだろう。来場者に対するものというよりはやはり、「女神」に対する――
 ディナーコートの紳士にエスコートされ、静々と通路の中央を歩んでくる少女に、全ての視線が注がれる。
 身に纏う淡い桃色のドレスは萌えいずる若葉と共にあるのが相応しい、初々しい花の色。他の婦人たちのようにきつく締め付けているとは思えない腰は、それだというのに随一と言ってよいほど細く、肌の雪のような白さとあいまって、触れただけで壊れてしまいそうな繊細な可憐さを演出していた。亜麻色の細い髪は結い上げられてドレスと同じ色の花を象った髪飾りで留められている。そして――
 彼女の身につける装飾品の中で最も注目すべき点があったとしたらここであるだろう。
 広く開いたドレスの胸元で、少女の歩調に併せて煌きをふんだんに返す、淡い青の宝玉。
 少女めいた桃色のドレスと氷のように澄み渡り近づきがたい高貴さを漂わせるブルーダイアとでは、通常であれば何ともミスマッチな取り合わせと感じられたことだろう。けれどもそんな違和感などは微塵も感じさせず、この宝飾のためのドレスでありこのドレスのための宝飾であるとすら思わせるのはどうしたことであろうか。
 その解は問うまでもなくその場にあった。
 違和感などないのは当然のことだった。ネックレスもドレスも、女神の御前にあっては等しく従属すべきものでしかなかったのだから――
 ――と。
 この場に吟遊詩人でもいれば、軽くその程度の句は読んでのけただろう。が、この席上には残念ながら詩人は招かれておらず、その少女の姿を見た者は内心に浮かぶ語句の巧拙は様々に、己の言葉によって一様に同じ思いの吐息を漏らしていたのだった。
(なん……っていうか……)
 この場にいる者の中では恐らく一番、彼女の姿を見慣れているであろう自負があるウィルですら言葉が出ないのだから、他の者が溜息しか漏らすことが出来なくて当然である。……ここまでとは思わなかった。油断していた、とすら言える。
(これは、「女神」……だな、本当に……)
 逆に、下手に見慣れていたのが敗因であったのかもしれない。普段、化粧など全くしていない少女が、薄くではあるが頬紅を入れ少女らしい淡い口紅をさしているというのが、余計効いたという可能性も大いにある。ダンスのレッスンを続けたお陰だろうか、元から別段悪いなどとは思ったことなどなかったはずの姿勢も少し見ない間に随分とよくなっているように見え、何気なく歩くさまにすら気品が漂っている。
 ともあれ――
 まさにそのソフィアの姿は、女神の化身と称しても全く恥ずべき所の無い神々しさに満ち溢れていた。
 ……もとより声をかけるつもりもなかったが、ウィルは、人の壁を挟んでいたとはいえ数メートルの至近にいたには違いない彼女に対し、全く何の行動も起こせなかった。
 彼女らの通過に引き連れられるように人の波は去り、周囲の気配が元に戻り始めた頃になってようやくウィルは広間の中央に視線を戻した。輝くような衣装を身に纏う上流階級の人間たちの群れに飲み込まれ、その姿はとうに見えなくなってしまってはいたが、視界の中には未だ、ウィルと同じ方向を見つめながら、ほう、と溜息をつく者を何人も認めることが出来た。
(うーん)
 内心で、感嘆の溜息と同義の呻きを漏らす。けれどもその内訳は実に微妙で、いいものを見たという気持ちが約五割。後の五割は……
(何か、壁があるよな)
 そんな思いであった。
 彼女をエスコートしていたタリス・ブラウンもかなりの美貌を誇る男だが、流石に彼女の前では多少霞んで見えたような気がする。ソフィアが他所の男と腕を組みながら歩いている姿を見たというのにその辺りに憤慨する気が起きなかったのは、つまるところそういう理由であったのだろうと、ウィルは冷静に考えた。同行者の秀麗な容貌も、彼女を引き立てる脇役、ドレスやネックレスと同列の扱いであったというわけだ。……が。
(もしあそこに俺が立ってたら……どうなってただろう)
 脇役にすらなれただろうか。その問いには即答出来る。きっぱりと否だ。身長も高くも低くもなく、顔立ちも際立った品がある訳でもなく、人を引き寄せるような華など欠片もなく。自分の容姿が殊更悪いとは思っていないが、あの男のように、彼女と並んでひとつの芸術作品になる自信は全く起きなかった。それ邪魔ちょっとどかしてとか言われて石すら投げられそうな気もする。
 ――そう。これで。あの男と彼女が一緒になって正解だったんじゃ、などと思える程に――
 ……!?
 ふと、自分の思考に差した影に気付いてはっとする。
(何!? 何ですか俺、いつの間に何でこんなネガティブな奴になってんだ!?)
 冷や汗のようなものが額から吹き出すのを感じ、思わずウィルは片手で頭を抱えた。胸中で叫び声を上げる。明るめな性格とはいいませんが別に、根暗系キャラで売ろうと思ったつもりもないです俺は!
 自分ですら何がなんだか分からないショックのあまり、目の前が半分ばかり暗くなってきていた心地の彼を現実に連れ戻したのは、制服の上着の裾をくいくいと軽く引っ張られる感触だった。
 自分の職務を思い出したというよりはただ反射的に足元を見下ろすウィルと、そこにいた、ウィルの腰ほどしか身長のない子供の潤んだ目が合う。
「おじさん……おしっこ……」
 頭の中の――
 何かが、断線を起こす、感触。
 ――そうかそうか俺には迷子を手洗いに連れて行く程度の仕事がお似合いか、ていうかおじさんか、おじさんなんだ、そうなんだ――
 何故かひたすらに心の中を乾かせて、警備員は、どこぞの子弟をトイレにエスコートするという職務を開始した。



「……どうかしましたか?」
 この一週間で随分と聞き慣れてしまった、常に笑みを含んでいるような心地よい声でそう問われ、ソフィアはふわりと顔を上げた。結い上げている頭が、上を向こうとすると少し重い。
「退屈をさせましたか?」
 気遣わしげに問うてくる声に、ソフィアは、微笑みながら、いいえと首を横に振った。
 夜会という慣れない席で、無作法をやらかしたりはしないだろうか、雇い主に恥をかかせてしまったりはしないだろうかとソフィアは直前まで心配していたのだが、会が始まってしまえば前もって何度もブラウンに聞いていた通り、特に彼女が慌てるような事態に陥ることはなかった。ブラウン曰く、「女性に恥をかかせるようでは男として失格ですよ」との事であったが、言に違わず、彼の紳士ぶりは完璧で、ソフィアはただ深く考えずに微笑などを浮かべながら彼の隣に付き従っていれば良いだけであった。とはいえ、彼女は逆に退屈を味わっていたという訳でもない。ここがこのタリス・ブラウンの凄い所であるのだろう。人々が始終向けてくる好奇の視線や言葉の矢面にソフィアを立たせないようやんわりと保護しながら、受け答えに困らない言い回しに変えて積極的に会話を向けてくる。外界からの刺激を全て遮断されるよりも、ある程度は自分で処理する方が彼女の好みであるとの配慮であるのだろう。馴染みのない環境の中で、ソフィアは物を知らない子供のように、様々なものに興味を向けたのだが、それら全てに不快な様子も見せず、逐一深い知識で注釈をつけてくれたりもした。
 まさに完全無欠である。容姿もそうであるが、何気ない仕草、理知的な言動、瞳に浮かべる表情の欠片に至るまで、非の打ち所はなかった。
 そんな完璧な男であれば――彼女の、不意に表情に表したごく微か表情の陰りを察することが出来ても不思議ではなかったのかもしれない。いまだ自分を見詰め続けている蒼い瞳に、彼女は誤魔化すことを諦めて、告げた。
「いないな、と思って」
「サードニクス君、ですか?」
 他の賓客に聞こえないよう押さえた、けれども囁きという程には不自然ではない声のブラウンに、ソフィアは頷く。
 先程から注意して捜しているというのに、ウィルの姿が見えない。会場の壁際には何人も、紺の制服を着た警備員が立っているというのに、その中に捜す相手の姿は見えなかった。聞いた話が正しければ、ウィルが入っていた午前中に出発した班は、今はこの会場警護の任に就いているというはずなのに。
 彼には、どうしても会って話をしなければならなかった。言うべきこと、言わなければならない事があるのだ――
「……まだ、話していなかったのですか、あの事を」
 責める口調ではなかったブラウンの声に、ソフィアはしかし、叱られた子供のようにしゅんと俯く。
「言おうとは、思っていたんです。でも、この数日……一度も会えなくて」
 ぽつりと呟くように、ソフィアは言った。きゅっと、シルクの手袋に包まれた自分の手を彼女は握り締める。
「言わなくちゃ……彼を裏切り続けることになってしまうから。だから、早く言おうと思ってはいたんですけど、機会がなくて。……ううん、違いますね。機会は、自分で作ろうと思えば作れたに決まってる。だけど、あたしが作らなかった。ウィルが怒るのが分かってたから。怖かったんです、多分」
 最後の、本心を口にしたとき、思わず彼女の唇からは笑みが零れた。自嘲の笑みだった。そんな彼女の様子を見守るブラウンは、遠慮がちに一言、告げる。
「今日が、最後ですよ……?」
「分かっています」
 悲壮な決意すら垣間見える彼女の心境を案じたのだろう。形の良い眉を、ブラウンは寄せた。
「このまま、何も告げずに……という選択も、あるかとは思いますが」
 最も簡単な解決策を提示した青年に、ソフィアは少し考えてから、静かに首を横に振った。



 彼女には俺よりもずっと相応しい男がいる。それが正解、ピンポーン。何でそんな簡単なことに今迄気がつかなかったんだろう。いや気がつかなかったんじゃなくって気付く余地がなかったのかもしれない。成る程成る程、そう思ってみれば思いつく所は多々ある。彼女は前から男によくもてた。けれどその度になんだかんだ言って取り返してきたのは、相手にいちいち難癖つけて彼女には不適当だと烙印を押し続けてきたからだった。世間知らずのボンボンやら粘着質なオヤジやら。さすがにああいう相手には渡したくない。けれどどうだろう、今みたいに、斜めにしてもさかさまにしても、どうやってもいちゃもんのつけようのない相手には俺は何も言う事が出来ないじゃないか。ああ何か自分の思いにすら不信感が湧き起こる。彼女を愛していたというのは本当だ。けれどもそれは真実の愛だったのだろうか。焦がれるような恋愛感情なら相手がどれだけ自分より勝っていても、掴み掛かって取り返しに行こうって思うものなんじゃないだろうか。きっとあの男の方が俺より彼女を幸せにしてくれる――そんな言い訳で納得させることなど出来る訳がないというのが、恋というものじゃないんだろうか……
 力なく壁にもたれるように座り込み、胡乱な瞳で天井を見上げ続ける男を誰かが見つけたとしたら、いくらその男が警備員の制服を着用していたとしても明らかな不審人物として他の警備員を呼びに行っていたことだろう。けれども運よくその場は無人で、ウィルの思考は誰にも邪魔されることなく続けられていた。
 運よく、というのは少々語弊がある。彼がいるのは係員専用の裏通路である。どうにも気分が悪くなって、手洗いに行くと仲間にそう告げ、逃げ込んだ場所だった。会場が賑わっていればそれだけ閑散とする場所であるのだから、この場が無人であるというのは決して偶然の産物ではない。
 しかしそのどちらにせよ――結局、彼の姿を見咎めるものがいなかったというのには代わりはなかった。
「あ……もしや俺って……」
 ふと呟く。会場内であれば音楽や喧騒にかき消され、誰も気にも止めることのなかったであろう程度の声であったが、無人の廊下にはそれすらも気味が悪いほど響く。
「俺ってソフィアの……父親だったんだろうか?」
 だから散々男にけちをつけるが、文句のつけようのない相手なら文句を言わず嫁にやる、と。
「……いや、さすがに年齢的に、それはないんじゃないかと……思うんですけど、俺は……」
 その時初めて入った横からの声に、ウィルは天井を見上げていた瞳のまま、顔を横に向けた。視線の先の、同じ紺の制服を着た大男――ジフが、ある意味お約束になりつつある、少々たじろぐような仕草を見せる。
「やあジフこんにちはいい天気だね」
「いやもう今更どう反応されても追い討ちをかけるような突っ込みなんぞしやしませんけど」
 どうやらウィルが、心を抉る現実を聞かされたくない一心で現実逃避しているとでも取ったらしい。ウィル自身にはそのような自覚はなかったが何となく理解は出来ないこともない。そして、やはりこれもウィル自身には自覚のないことであったが、余程今の彼は悲痛な顔をしていたということなのだろう。何か、非常に慎重に言葉を選ぶそぶりをしていたジフが、彼なりの熟考の結果を声に出してくる。
「まあこの度は……御愁傷様っつうか」
「しっかり追い討ちかけてんじゃないか! 喧嘩売ってんのか!?」
「ひいい!? すみません!?」
 腰を落としていた床から手もつかず一息に飛び起きて詰め寄ると、ジフは情けない声を上げた。気が萎えて、ちっと舌を打つ。しかし、お陰で自分の足で立つ気もなかった状態からは回復出来たのは有り難かった。一回座り込んでしまったら、気が抜けて何をする気も起きなかったのだ。
「ったく、何が父親だ、馬鹿らしい」
「自分で言って……ナンデモアリマセン」
 ジフを軽く睨みやってから、ウィルは通路を会場へと引き返して歩き始めた。痛む頭を、手で押さえる。風邪でもひいたかのようだ。酒には酔わないたちだが、悪酔いしたらこのような感じかもしれない。
 もちろん、自分の頭が痛む理由など、十二分以上に分かっている。
 会場入りした後も、ウィルの目は自然と、ソフィアとタリス・ブラウンの姿を追っていた。容姿の問題だけではなく、タリス・ブラウンはソフィアのパートナーとして最高の働きをしていた……
 溜息をついても吐き出しきれない。こんな埃の積もった片隅でいじけている自分などとは、はなから比較になる男ではない。
 けれどもそんな卑屈な思いを、矜持の最後のひとかけらで無理矢理押しつぶして、ウィルは何食わぬ顔を装った。
「……で、何でジフ、お前、こんな所にいるんだ? いくら同じ会場にいるからってここまで偶然は重ならないだろ」
 歩くウィルの後ろからついてくる大男に、振り返らずに尋ねる。ジフは、ああ、と思い出したように声を上げた。
「サードニクスさんが裏に行かれたと、そこで聞きやしてね。追いかけてきたんでさ」
「…………俺はちょっとそういう趣味はないぞ?」
「いや俺だってねえですよ。捜しておりやして。ミスター・ブラウンの命令で……」
「……え?」
 通路の出口――広間へと繋がるドアに手を掛けた所で丁度ジフが呟いた言葉に、さすがに驚きを隠せずに、ウィルはドアノブを引きながら後ろを振り返る。
 ――が、すぐさま彼は、ジフから目を離し、広間の方へ視線を戻さねばならなかった。
 ドアを開けたその瞬間――
「きゃああぁあっ!!」
「うわあああ!?」
 何人分もの悲鳴と、ぱん、ぱんという小さな炸裂音がウィルの耳に飛び込んでいた。


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