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 ネツァワル国首都ベインワット――
 茶褐色の石材を組み上げられて作られた無骨な王城と、街の象徴たる巨大な斧の門を遠目に望む商業区の一角に、部隊《ベルゼビュート》の活動拠点は存在する。飾り気のない石造りの建物の最上階にある飾り気のない部隊長の執務室では、革張りの椅子に深く座する女と、黒樫の机を挟んで正面に立つ男が睨み合いに近い緊迫感を孕んで向き合っていた。
『脱退届』
 執務机の上に置かれる、そう表書きされた簡素な封筒を見下ろして、部隊長はふぅー、と長く溜息を吐いた。
「やれやれ。そこまで拗ねることもなかろうに」
「ははは。拗ねるって程度で済む仕打ちだとでも思ってたのか」
 嫌味でわざとらしい笑い声を上げながら、クォークは精一杯刺々しく言った。この部隊長を始めとしてこの部隊の面子の気遣いのなさやら遠慮のなさやらには全く以って辟易するが、ただ、彼女らに対し今更怒りが湧いたという訳ではなかった。彼女らがそういう人種だということなどはとうの昔から知っているし、知りつつこれまで付き合ってきたのだ。戦場などという異常な場所を好き好んで日々の棲家とし、命のやり取りを日常とする以上、人命など、薄ら笑いでジャグリングのボールを投げる程度の気楽さで扱えるくらいのふてぶてしさがなければ発狂してしまうとクォーク自身も思っている。――自分はどうもその薄ら笑いが無表情になってしまうらしいが。
 もしかしたらその自分の感覚すらもが一般的な常識から言えば、大分常軌を逸した物なのかもしれないが――ともあれ、今部隊の脱退を願い出たのも、実を言えば拗ねた訳でも今更彼らに愛想をつかしたわけでもなかった。ただそうする必要性があっただけの話だ。
「辞めた後はどうするつもりだ?」
「言う必要性を感じないね」
 胸の前で腕を組んだまま、書類を手に取ろうとはせずにいる部隊長の問い掛けに、クォークはつっけんどんに返した。……前言撤回、多少は拗ねている。
「エルソードに渡る気か?」
 クォークの返答は無視して端的に指摘されて、彼は即座には何も言い返す事が出来なかった。それを肯定と取り、部隊長の隻眼が目の前の部下を睨めつける。
「兵士登録を抹消し、全ての財産も、積み重ねてきた経歴も、地位も、人脈も、何もかも捨てて出奔し、他国に密入国。そしてそこに兵士登録して一から人生をやり直す。まあ、裏技中の裏技だが、可能だな。だがお前がエルソードに行って一体どうするのだ。それで件の娘の抹殺命令が解除される訳でもなく、逆にお前を反逆者として追う事にもなり得るぞ」
 首都に帰投するまでの数日を掛けて考えた計画をものの数秒で看破されて、今度はクォークが溜息を吐く番になる。
「傍にいれば、彼女を護ることだけは出来るさ。俺の方は好きにすればいいけど、部隊脱退後の行動で裏切り者呼ばわりされる筋合いはないな」
 溜息で力が抜け思わず俯いてしまった顔を上げ、毅然として言い放ったクォークを、部隊長は片目で真正面から睨み据えた。だがその目つきには普段はあまり見ない憐憫の情が含まれているようにも感じられた。
「ああいった見るからに儚げな女はいまだかつてお前の傍にはいた事が無かったタイプだからな、そんな娘にああも無心に頼られればさぞかし庇護欲も満足することだろう。……お前は、その欲求の充足と恋心を混同してはいないか? もしそうであるのなら、お前はそのうち絶対にあの娘に飽きる。今はまだ新鮮に映っているからいいが、いずれあの娘の存在が負担になる。その時になって、エルソードに渡った事を後悔しても遅いぞ」
 部隊長の台詞にクォークは目をしばたく。
「あんた結構嫌なこと言うな」
 と、返してみたもののどちらかと言うと、心外な分析に憤慨するよりも、この部隊長にしては意外な程に繊細な思考の方に驚いた。
「男の馬鹿さ加減くらい知っているつもりだ」
「よっぽど変な男に引っかかってきたんだな」
 ぎろりと睨んでくる目から視線を外し考える振りをして腕を組む。
「庇護欲ねえ。……まあ、そういう部分がないと言ったら嘘になるのは認めるよ。でも、それが全部じゃない。護ってやりたくなるような弱さも可愛いけど、あんたが目を付けたように時折妙に冴えてる部分も魅力だと思うし、意地っ張りなのも泣き虫なのもすぐ癇癪起こしてほっぺた膨らませるのも全部好きだよ。あれに飽きる自信なんてさっぱりないね」
 ――冗談を言い合える気の置けない仲間はいる。戦場で背中を預けられる信頼に足る仲間はいる。
 不満はなかった筈だった。日々、度が過ぎる事も多い仲間達に閉口させられつつも、それなりに満足出来る暮らしを送っていたつもりだった。戦うことも苦手ではないし嫌いでもなかった。爽快とは思わないが、無心にはなれる作業。性には合っていると思った。とどのつまり、自分の生き方に何ら疑問など持ってはいなかった。
 あの時までは。
 あの、大クリスタルの横で呑気に寝転がっていた少女の、陽だまりでまどろむ子猫のような姿を見下ろした瞬間に感じた、言い知れない郷愁のような気持ちを知るまでは。
 不思議な子。
 色々どんくさい子。
 意外と真面目で、頑固で、凄く頑張り屋な子。
 彼女に出来る方法で、彼女にしか出来ない方法で、精一杯彼を護ろうとしてくれた――可愛い、女の子。
 今更、彼女を欠いた生き方に戻れと言われても、その方法すら思い出せる気がしない。
「……まさに恋に狂った男の発言だな。聞いているこっちが恥ずかしい」
 口の両端をげんなりと下げて砂でも吐きそうな表情を作りつつ部隊長は嘆息した。
「放っとけ」
「全く以ってやれやれだ。青いというか何というか。若いって羨ましいな、お前ら」
 投げつけられた呆れ声に微妙な引っ掛かりを覚えて、その原因を探る。羨ましいな、お前……
「……ら?」
「感謝した方がいいぞクォーク。お前より数段行動が敏速だった彼女にな」
 言って、部隊長はクォークの後方の執務室の扉を顎で指す。ゆっくりと振り向いた視線の先で、重厚な扉がかちゃりと控えめな音を立てて開き、その隙間から恥ずかしそうな上目遣いで顔を覗かせたのは。
「は……? なん、で……?」
「何でって。クォークがエルソードに行くなんて発想の方が逆にびっくりなんだけど……」
 顎先までの長さの髪の小柄な少女。身に着けているのは今迄に見た、白地に山吹色のラインが入ったローブではなく、新兵に支給される質素なスカート姿だが――絶対にこのベインワットにいる筈のないミナが、何故かここにいて、何故かいきなり苦言を呈してくる。
「だって、いや、それは次善の策って言うか……君にネツに来いだなんて言える訳がないじゃないか!?」
 激しく動揺しながらも言い返すとミナは、コルセットに包まれた胴衣の腰に手を当てて、頬を膨らました。
「私、あなたが来いって言ってたら、迷わずに来てたよ。最初だってそうしたじゃない」
 その言葉に、ただクォークは目を見開いた。喉の奥からこみ上げてくる感情が駄々漏れになってしまいそうで、咄嗟に手で口を覆い隠す。思う所があり過ぎて笑顔を向けてやる事すら出来ない。
「密入国してきた上、自分を殺そうとしていた部隊の本部に単身乗り込んで来るとは、尋常な度胸じゃない。気に入ったぞ」
 声も出せないクォークに代わり、くつくつと喉を鳴らしながら部隊長が呟いたが、クォークは内心で、違う、と首を振った。
 違う。度胸なんてある子ではない。たかだか援軍に来ただけで震え上がるような人一倍の怖がりだ。ここに来るまでに、どれだけ恐ろしい思いをしたことだろう。
 入室を躊躇うようにドアの傍に立っていたミナに歩み寄り、手を伸ばして引き寄せて、細い肩を両腕できつく抱き締める。
「わっ」
「ごめん。怖い思いをさせた」
 驚いた声を一声上げ、手足をぴんと伸ばして身体を強張らせていたミナだったが、やがておずおずと額をクォークの肩に寄せる。
 ――ごほん。
 まさにその瞬間、横合いから入ってきたわざとらしい咳払いに、クォークはむっとして、ミナは慌てふためいてぱっと身体を離した。
「乳繰り合うなら外でやってくれないか」
「乳繰り合ってない! わざわざタイミングを見計らって邪魔して来ないでせめて何秒かは見逃すくらいの優しさはないのか!」
 抗議の声をしれっと無視する形で、部隊長は目の前の封筒を手に取った。結局中身を見られることなく、それはびりびりと破り捨てられる。その様子を見ながらクォークは、ふと気になった事を尋ねた。
「……一つ聞きたかったんだけど。あんた一体何が狙いだったんだ?」
「狙いとは?」
「彼女に対してあんな命令を出した事だ。いちいち反逆的な俺を陥れるのが目的だったのか、単に敵に情けを掛けそうなのを叱責するつもりだったのか……どちらも違うよな。それが狙いなら実行するタイミングはいくらでもあった。何が目的だった?」
 問われて、部隊長は形のよい唇を苦笑の形に歪める。
「穿ち過ぎだ。言葉通り、危険な敵に相応の対処を命じた。その結果、図らずしもそれは不要になった。それだけの事に過ぎん。……所で、」
 結局いまだにミナの肩を片手で抱き寄せているクォークに、部隊長が半眼を向ける。
「制止しても尚しつこく目前で乳繰り合いを続けようとしているのは侘しい独り者へのあてつけか? それとも他人に見られるプレイが趣味なのか? ん?」
「乳繰り合ってな!い!」

 ――ばたん! と乱暴に閉められたドアを見やって、部隊長は机の上に肘をつき、くすくすと笑った。
 その笑声は、聞く者が聞けばその意外さに腰を抜かしかねない程に爽やかな声だった。晴れ晴れとした口調で、独り言を囁く。
「貴重な裏方戦力ゲット」
 と、ここまでずっと傍らにいつつもハイド中の如く気配を消し、一切会話に口を出さずに黙々と書類の整理作業を行っていたスカウトが、その言葉にびくりとして、戦慄した表情を部隊長に向けた。
「……まさか……ここまで考えてたとか、冗談……っすよね?」
 部隊長がにやりと笑う。
「穿ち過ぎだ」



 部隊の本部を出てそのまま足早に、ベインワットの石畳の街路を歩き続けていたクォークに、殆ど駆け足になっていたミナが息を弾ませながら声を上げた。
「ま、待ってクォーク、歩くの早いよ」
 悲鳴に近い声でそう言われて、初めて彼は自分がミナの手を握って引いてきていた事に気が付いたようだった。
「あ、ごめん……」
 はっとした様子で呟いて、慌ててその手が離れようとする。瞬間的に、ミナはそれを少し残念に思ったが、もしかしたら彼も同じように思ったのかもしれない。手のひらと手のひらが完全に離れる直前に、思い直したように――或いは意を決したように握り直された。指を組み合わせる形で、さっきよりもより強く。思いがけない感触にミナは驚いてしまったが、そのぬくもりを手放さずに済んだ事が素直に嬉しくて、彼のウォリアーらしく硬く筋張った手をそっと握り返した。
「まさかミナがこっちに来るなんて、考えもしなかった」
 背を向けたまま、ぽつりと呟いてきたクォークに、ミナは少し笑って答えた。
「うん。私も思わなかった。こんなことが出来るなんてラムダさんに聞くまでちっとも知らなかったもの」

 ――あの後、どうにか逃げ延びて仲間達と合流してから、ミナはただただ泣き暮れるばかりだった。
 あんな別れ方をしてしまっては、もう二度と彼に会える訳がない。戦うことなんてもう出来るとは思えなかったし、何より彼がそうさせてはくれないだろう。次に顔を合わせたらきっとまた、ミナを連れて逃げようとしてくれるに決まっている。でも、それだけは駄目だ。彼を巻き込んではいけない。一番幸せだと思える選択肢が一番駄目で、それを避ける為にはもう二度と会わないなんて一番辛い方法を選ばなくてはならないだなんてあんまり過ぎて、泣いた所で何の解決もしないと分かっていても、子供のように泣き続けることしか出来なかった。
「一緒に逃げるまでの覚悟があるんなら、もっといい方法があるわ」
 ラムダがきっぱりとした口調でそれを告げたのは、アデムガンの戦場の敗北が確定した後撤退し、一つ後方のサーペント砦まで辿りついた時だった。
 言われた意味が分からず、ミナは喉をひくつかせながら腫れぼったくなっていた目を上げて友人を見たが、その一言で彼女が言わんとしている案を察したタイガが横から明らかにぎょっとした顔を向けた。
「おい待て、そりゃ全然違うだろうが。ただ身を隠すだけなら、気が済んだらリベルバーグに戻ってくりゃいい。けどそれをやっちまったらもう二度と後戻り出来ねーぞ」
「黙ってなさいトラは! あんたは知り合いでも平気で斬りかかって来れる変態だからいいけどね、普通の人間は違うのよ! ましてや恋人と敵同士とかどこのロマンス小説! 萌えるじゃない!」
「萌えんのかよ……」
「ただそのシチュエーション的にはいいけどね、現実問題安易に逃げた所でどうする気なの奴は。あんな脳味噌筋肉で出来てそうな男に戦争以外でミナを養えると思えないわよ!」

「……何で戦場でちょっと顔合わせただけの人にそんな分析されてるの俺……しかもあながち間違ってない……」
 ミナの話を聞いて、まあ確かに甲斐性ないですけどねそうですけどねとか聞こえにくい声でぶつくさ言いながら、頭痛でも感じたかのように眉間を指でつまんだクォークに、ミナは真剣に頷いた。
「クォークまで狙われるのは困るとまでは思ったけど、そこは盲点だったわ。さすがラムダさん、先見の明のあるスカウトよね」
「スカウト関係ない……」
「ともあれ、それですぐにその方法を教えてもらって、首都に帰ってトラさんから裏の社会っていうのを紹介してもらってごにょごにょっとして、今日やっと到着したのよ」
「ごにょごにょ……?」
 なんだそれ、とでも言いたげなクォークだったが、ミナにも具体的な説明は出来ない。殆どタイガに連れ回してもらい色々手配をしてもらっただけだったので、実際どんな手続きをしたのかはよく分からなかったのだ。ラムダに尻を蹴っ飛ばされ、ミナに泣き付かれてやむを得ず付き合ってくれたタイガは、本当はやはりミナが国を捨てるのには反対だったようで、最後の最後まで渋々とした様子だったが、結局はちゃんと手を貸してくれた。
「あの男、よっぽど妙な場所に顔が利くんだな」
 少し感心したようにクォークは言ったが、それについてもミナはよく分からなかったので、小さく首を傾げた。
 そんなミナを視界の端で見ていたクォークが、不意にきちんと身体ごと、彼女の方に向き直ってくる。
「それより、もう今更だけど……良かったのか? 今迄積み重ねた物を失うってのもそうだけど、何より君、あんなにネツ嫌いだったのに……」
 彼にとってはそれは重大な気がかりだったのだろう。緊張した声で慎重に呟かれた言葉に、ミナはぱちぱちと目をしばたいてから少し考えて、答えた。
「嫌い……っていうか、怖かったんだと思う。ネツァワルは恐ろしい人たちばかりの、悪い魔獣の国だってずっと聞いてたから。でもそれは違うんだって、分かったから、平気。………………《ベルゼ》の人たちは、ま、まだちょ、ちょっと怖いけ、ど……」
「何か色々すみません……」
 出来る限り何気なく言ったつもりだったのに後半だけは無意識に声が震えてしまい、クォークが微妙に切ない顔をして心底申し訳なさそうに詫びて来た。ううん、と、どうにか首を振る。でもこの仕草もがくがくと震えているように見えたかも知れない。
「……財産は、元々なくなって困る程持ってたわけでもないし、階級が新兵からやり直しになったって、別にクォークから教えてもらった事が消えてなくなるわけじゃないしね。……エルソードは生まれ育った国だから、そりゃあ愛着はあったし、友達とあんまり会えなくなるのは寂しいけど……」
 ミナが囁くように言うと、クォークの目が僅かに伏せられた。会えなくなるどころの話ではなく、ミナが何よりも拘っていた敵対関係に陥ってしまうのだという事実に、心を痛めてくれる彼に柔らかく微笑む。
「でもね。それでも、クォークの所に行きたいって、そう思ったから。私がちゃんと考えてそう思ったんだから、これでいいの」
 少しだけ、湿る程度に瞳が潤んでいるのは自分でも分かったけれど、それを拭うよりも先に彼にそう言いたかった。クォークの、半ば伏せられていた瞼が開かれて黒い瞳がミナを向く。彼の唇が何かを言おうとして薄く開かれたが、言葉を出すのを躊躇ったようにそのまま閉じられる。何かを堪える顔をして、一言も発しないクォークに不安になってミナの眉がきゅっと寄る。
「あの」
 彼の手の甲に、握っていない方の手を重ねてミナは恐る恐る尋ねた。
「……ほんとは、迷惑だった?」
 怯えすら含んだ彼女の言葉に、クォークは心外というよりも寧ろ聞いた事のない言葉をいきなり聞かされたというくらいに呆気に取られた顔をした。口を押さえながら、あー、と小さく呻いてやはり何かを言おうとしたが、結局言葉よりも先に、繋いでいた手が離されて腕が再びミナの肩に回される。
「わっ」
「何でそんなに可愛いんだよ、ミナは」
 部隊長の部屋でそうされたように力強く抱き寄せられて、否定にも肯定にもなっていないようにミナには思える答えを彼の胸元で、身体から直接響くくぐもった音で聞く。「こっ、ここっ、街中っ」と慌てたミナの声も抱きすくめられた腕の中でくぐもってしまったが、離してもらえなかったのは聞き取れなかったからではなく無視されたからだろう。
「む、むぅぅ〜〜〜〜」
 恥ずかしさのあまりにむくれるミナの表情は見ていないながらも彼女の表現したい雰囲気は察したらしく、そのままの体勢で、肩を揺らして笑うクォークに余計恥ずかしさが倍増する。単にからかう為にこんな事をしてるんじゃないだろうか彼は。両の手を拳に握って胸板をてしてし叩いて抗議すると、笑みの気配を残したままクォークは身体を離した。離されたら離されたで我が侭な事にミナはまたそれを残念に思ったが、そう思った瞬間に近づいてきた乾いた唇が、ミナの唇にそっと触れる。
「ネツァワルにようこそ。これからも、宜しく」
 すぐに離された触感に代わって言葉と吐息と微かな笑声に唇を撫ぜられて、ようやくミナは今何が起きたのかを認識する。彼に赤面させられた経験はもう何度となくあったことだが、いまだかつてない勢いで顔が盛大に茹で上がってくる。
「〜〜〜〜!!」
 文句を言いたくても金魚みたいにぱくぱくとしか動かない口からはどう頑張っても声は出てくれそうになかったので、ミナは少年のように笑うクォークを見上げたまま、ひたすらに彼を叩く事で抗議表明と代えた。

【 Fin 】

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