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ワド様といっしょ


「ひあっ……も、もうだめ……もう許してくださいぃ、ワドリーテ様ぁ……」
 前傾気味に台に手をついた姿勢で、頬を真っ赤に染めたミナは悲鳴にも似た声でその名を呼び続けていた。普段は清純という言葉の似合う真っ直ぐな瞳は今は朦朧としてしっとりと潤み、欲望を孕んだ熱すら帯びている。
「そ、そんなに焦らさないで……お願いします、もう、私もう、欲しいんですぅ……っ」
 身を焦がす熱に浮かされ意識すらもが途切れつつあるのか、息切れした苦しげな声で彼女はあられもなく懇願する。台を掴む手がふるふると切なげに震えて、彼女の欲望の深さを伝えていた。
 そんな少女の唇が息も絶え絶えにあさましい欲求を言葉にする。
「お願いっ……動いてっ、動いてくださいワド様っ、奥までっ! 奥まで来てぇっ!!」
 と――
 ひたすらに希うミナの身に、突如待ち望んでいた瞬間が訪れた。
「あああああん!! ワド様ああああ! ワド様が奥にいいいっ! ワドリーテ様のおっぱいがああああああ!! …………っ! ひぎぃ!?」
 欲し続けていたものをようやく与えられ、歓喜に満ちたミナの声が高く上がる。――しかしその感極まった声は、途中で痛切な悲鳴に変わった。
 想像だにせぬ激しい衝撃を叩きつけられたかのように目を見開いた彼女は、がくがくと痙攣し、やがて果てるようにその場に崩れ落ちた。荒い吐息混じりの喘ぎ声が、興奮の為か普段よりも更に赤く色づいて戦慄く唇から零れ落ちる。
「ワドリーテ様が……」
 肩を震わせ、彼女はぷるぷる震える拳を床にぺちんと叩きつけた。
「左奥まで来てくれておっぱい揺れたのに銃とかないわ……っ!!」
「……ミナ、うら若き娘さんが公衆の面前でおっぱい連呼はどうかと」
 ミナががっくりと首を垂れるルーレット台のすぐ傍にあるテーブルから、クォークはぽつりと呟いた。ミナは床にへたり込んだまま顔を上げ、潤んだ視線を自分を見下ろす相手に向ける。
「だって、だってぇ……」
 拳を更にぺちぺち打ちつけながら、ミナはこの世を呪う怨霊の如き怨嗟の声を発した。
「可愛いお洋服があぁぁぁ。可愛いソーサラーの装備が欲しいのにいぃぃぃ。ワド様のばかあぁぁぁ」
「そんなに大興奮する程のことかねぇ?」
 テーブルに肘をつき、やれやれと言わんばかりの視線でミナを見ているクォークを、彼女はキッと睨みつける。
「頑張って頑張ってこつこつ貯めた600Rだったの! 『出ないなら当たるまで回せばいいだけじゃないか』とか真顔で言うような人とは私違うの!」
 しゃがみ込んだままのミナに剣幕を突き付けられた本人は、真顔のまま視線を逸らし、グラスに入ったレモネードのストローをちゅうと吸った。
 微妙に白々しい沈黙がしばらく続いた後、まだどんよりと落ち込んでいたミナに視線を戻し、クォークは慰めるように呟いた。
「金くらい貸すよ?」
「……いい。借金してまで賭博とかちょっと人として超えてはいけない一線だと思うの」
 自らに言い聞かせるようなその一言でようやく諦めがついたのか、ミナはのろのろと立ち上がり、膝をぱたぱたと叩いた。あらゆる人々の悲喜こもごものドラマが日夜繰り広げられるカジノとはいえ、うら若き娘さんのオーバーリアクション過ぎる絶望は中々の見物だったと見え、周囲にはちょっとした人だかりが出来ていたのだが、ミナは気にせず――というか恐らく気にする余裕もなく、ふらふらと人垣をすり抜けてプライズカウンターへと向かって行った。
 クォークはその様子を淡々と見送っていたが、ふと視界の外から視線を感じ、顔をそちらへと向けた。そこにいたのは友人のサイトだった。どうやら声もかけずにただただ外野から一部始終を見ていたらしい。
「いやー、ミナさんは相変わらずたまに面白いっすねぇ」
「面白いね」
 と、呟いた声に、特に何かしらの感情を含めなかったのを誤解したのか、サイトが片眉を上げてクォークを眺める。
「百年の恋も冷めるって奴っすか?」
「いや別に。ミナが変な子なのは最初から知ってるし」
「まーたそうフォローのしようのない事を……」
 呆れた声を漏らすサイトの前で、クォークはグラスを一息に干し、ひょいと席を立った。
「どちらへ?」
「コイン売り場。貸与じゃなくて贈与だったら人としての一線超えないよな」
「まーたそう無駄に甘い事を……」
 しょうもないバカップルっすね、と更に輪をかけて呆れた声を投げかけて、飄々と売り場に歩いていくクォークをサイトは見送った。

【Fin】

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