魔導学院物語 番外編
無神の神殿




 二人の目の前にあったのは、一つの大きな神殿だった。
 よほど前に作られた物なのだろう。壁の至る所に亀裂が入っており、かつてはある程度の栄光を誇っていたであろうその光景も、今はただ無惨な物と化していた。
「天使の遺産ね。しかも様式から見てもおそらくロスト直前の物だわ」
 だが荒廃したその遺跡の跡地とは対照的に、黒い瞳を輝かせながら、一人の女が神殿の側に寄っていく。もう片方の黒髪の眼鏡を掛けた男は、嬉しそうな表情を浮かべている女性を、半ば呆れた表情で見ていた。
「どーでもいですけど、今、俺達が置かれている状況、解っているんですか?」
 眉をひそめながら、男はその女に尋ねた。女は振り向くと、つまらない物を見るような目で、しばらく男を眺めた後に答える。
「こんな凄い遺跡を前に感動できないなんて、エーヴンリュムスさんは寂しい心の持ち主なんですね」
 その言葉に皮肉が込められているのは、言うまでもないことで、言われた当人であるクリフォード=エーヴンリュムスは、ただ苦笑しながら頬を掻いていた。

 彼女、エイル=フォースライクは赤い瞳を持つ赤珠族の王都ディレファールの王立魔導研究所の遺跡調査員だ。
 王立魔導研究所といえば、赤珠国でも最要所でもある機関である。
 もっとも調査員とはそれほど高い地位ではないが、赤珠族でない黒い瞳の彼女がその地位にいることを考えれば、彼女の手腕は大した物だろう。
 実際、エイルを護衛することになり、以前彼女が提出した調査レポートを見たときには、その的確な調査内容に、クリフォードは驚嘆の息を発したものだ。
 しかし、クリフォードとは対称的に、彼女はあまりクリフォードに対し好意的ではなかった。というよりも、クリフォードを彼女の護衛にと派遣した魔導同盟に対し好意的な感情を持っていない、と言った方が正しいだろう。
(まぁ、こんな危険な辺境の調査だってのに、魔導師二人しか護衛によこさない同盟に、好感を持てって方がおかしいか)
 クリフォードはそんなことを思いながら、もう一度苦笑した。
 そう、クリフォードは一週間ほど前に、とある人物から依頼を受けたのだ。内容はエイル=フォースライクをチーフとする、王立魔導研究所、特別編成遺跡調査団の護衛につけ、というものだ。
 そして、それを決定した魔導同盟盟主を思い出しながら、深いため息をついた。さらに今自分たちが置かれている状況に対してもだ。
 二人は、運悪く調査団からはぐれてしまったのである。
 しかし運良く(と思わなければやっていられない)、彼らは目的の遺跡に先にたどり着いていたのである。
 不幸なのか、幸運なのか解らない奇妙な運命の巡り合わせに、クリフォードはやはり深いため息をつくしかなかった。

 事の始まりは一週間ほど前だった。
 クリフォードは先日就任した魔導学院の新学院長に呼ばれ、学院長室まで足を運んだのである。
 魔導学院は魔導師の育成機関であり、魔導同盟という赤珠国が中心となって設立した同盟の、直接的な機関でもあった。
 しかしそんなことはどうでも良く、学院長室に辿り着いたクリフは、そこで彼女と出会った。
「クリフ、この方は王立魔導研究所からお越し下さったエイル=フォースライクさんよ。フォースライクさん、彼が先程話していたエーヴンリュムス教師ですわ」
 そう言ってクリフに彼女を紹介したのは、眼鏡を掛けた、長い黒髪の女性だった。どことなく、知的な印象を持つ女性である。
 彼女こそが魔導学院の新学院長ベルーナ=ヴァルギリスなのである。
 ひどくか弱そうな女性ではあるが、彼女が脅威的な能力を持つ魔術士であるということは、クリフも良く知っていた。
 何しろクリフと彼女は、過去の大戦で同じ部隊で戦った戦友なのだ。クリフを学院に招いてくれたのも、彼女と彼女の夫である。
 だが今、それよりも重要なのは目の前にいる黒い瞳の女性だ。一言で言えば若い。とはいっても二十代には入っているだろうが、独特の落ち着いた雰囲気を持っている。
 だが彼女が調査員といえど、王立魔導研究所の人間だというのは、クリフには意外だった。
 場が開けている魔導学院ならともかく、国家の機関、特に軍部に対しては最重要とも言える、魔導の遺跡の調査員が赤珠族でない女性だとは思わなかったのだ。
 例外が無いとは言わないが、人間というものは自分と異なる物を異端という形で見る生き物だ。集団になると、さらにその色が強まるのも事実である。
 それでも種族の偏見というのは、クリフ自身の多くの経験から、人よりは少ないだろうと考えていたのだが、今回の事でそうでもないらしいと彼は内心苦笑した。
「どうも、はじめまして」
 クリフの苦笑を、悪い方向で受け取ったらしく、彼女は刺々しい声でそう言いながら、手を差し出してきた。どうやら自分に対しての侮蔑の嘲笑だと勘違いしたのだろう。
(第一印象は最悪だな)
 そんなことを思いながら、クリフも手を差し出す。握手をしたと同時に、強い敵意を感じたのは言うまでもないことで、クリフはただ苦笑するしかなかった。
「で、ベルーナ。どうして俺を呼んだんだ?」
 一応しきたり通りの挨拶を済ませた後、クリフはその視線を彼女に戻した。クリフは先程呼ばれたばかりで、何故エイルに紹介されたのかも、理由を聞かされていないのだ。
 それは奇妙な事であるが、ベルーナの母親が学院長を務めていた頃は、良くあったことだ。クリフが学院に来て三年近く、そういった類の事には慣れてしまっていたのだ。
 ベルーナは、クリフの疑問に、頬を掻きながら、苦笑をし、ひどく言いにくそうに話しはじめた。
「実は、貴方にフォースライクさんの護衛についてもらいたいのよ」
「護衛? 俺が?」
 クリフはきょとんとしながら、繰り返すようにベルーナに尋ねる。
 同盟の遺跡調査員の護衛、それはひどく重要な任務の一つだ。それを一介の教師であるクリフに任せるというのは、あまり納得がいかない。
 とはいっても、クリフの肩書き、というものはそれほど低い物ではない。第一級魔導師、それは魔導同盟と呼ばれる、世界に大きく影響力を持つ機関が定めた第二位の階級である。
 第一位の階級である特級魔導師が学院に七名しかいないことを考えれば、実質、それはエリート中のエリートだと言うことができるだろう。
 だがそれがクリフだという事になると、これまた話がややこしくなるのだ。
 彼の学院での通り名はオンリーラック、運だけの男という意味なのだが、それはクリフの魔導学院での評判を表したものであった。彼がその名で呼ばれるようになった理由は幾つかあるのだが、取りあえず重要なところだけを取り出すと、クリフが他の教師連中から嫌われているということになる。
 唯でさえ疎まれているのに、重要な任務を任されるということは、あまり良い風当たりは受けないということを意味していた。簡単に言えば更に疎まれるということだ。
 しかしベルーナはくすりと笑うと、「大丈夫よ」と一言だけ付け足した。
 その意味が解ったのは、その依頼をしぶしぶ承諾して、派遣されたもう一人の魔導師、すなわち彼のパートナーを知った後のことだった。


 クリフ達を含めて総勢七人の調査団はクリフとエイルの対面の一週間ほど後、赤珠国の王都ディレファールを出て、そのまま北上した。目的地は大陸内でも有数の未開発地であるウェックスの森である。
 遺跡の目撃情報があった森は赤珠国が独立する際に本国から勝ち取った物だ。だが人喰いの森とも呼ばれ、侵入者を拒むその場所には、人は滅多に足を踏み入れようとはせず、独立百年がたった今も、その内情はあまり知られていなかった。
(ったく、何でそんな物騒なところの護衛を二人でしなきゃならないんだ)
 クリフは行き先を知った一週間前から、飽きることなく心の中でそんなことを愚痴っていた。
 ウェックスの森は大陸でも有数の『魔物』の出現地でもある。言い切ってしまえばただの獣である『魔獣』に対し、『魔物』は『精霊』と呼ばれる存在に近いものである。そして彼らは須く高い能力を有する。
 つまり何が言いたいのかというと、この森がこの程度の人数で入り込むには無謀であるということだ。もっとも数が多ければいいというわけでもないが、メンバーの大半が戦いに関しては素人ということを考えれば愚痴りたくもなるだろう。
 更に護らなければならない方にも友好的な目で見られていないのだ。たまったものではない。
(まぁ、唯一の救いといえば、パートナーが優秀ってことだよな)
 そんな事を思いながらクリフはその彼に目を移す。無表情な、ブロンドの青年……。クリフの友人である学院教師クレノフの教え子である青年だ。名はフォールスという。
「何か?」
 フォールスはクリフの視線に気付き、変わらない表情でそう尋ねてくる。クリフが「いや、別に」と苦笑混じりで答えると、彼は「そうですか」と素っ気なく言葉を返し、再び視線を前に戻した。
(なんか、周囲敵だらけって感じだな……)
 そんな事を思いながら、クリフは再び小さく溜息をついた。

 そんな訳の解らないメンバーで行動していた一同であったが、不思議と魔物に遭遇することはなかった。――とはいっても魔物に遭遇する確率など、それほど高いものではないのだが。
 だが森での捜索にも慣れが生じ始め、余裕が生まれ始めたときにそれは現れた。
「フォールス、連中を護りながら逃げるぞ」
 捜索の中、突然現れたのは全身が緑色の鱗で覆われた、爬虫類の化け物だった。一見、蜥蜴の変種のようにも見えるが、そうでないことは明らかだ。
 それの身体はゆうにクリフの倍以上はあり、その頭には途中で枝分かれした二本の角が生えている。そしてその瞳には明らかに、常識の生を受けたものには有り得ない、特異な狂気が込められていたのだ。
(よりによって竜かよっ!)
 クリフは心中で吐き捨てるようにそう呻いた。不運としか言いようがないだろう。魔物の中でも最悪の部類に属するそれが、一同の前にはそびえていたのだ。
 魔物はそのほとんどが不特定の種であり――というよりも魔物は生物として確立していないのだが、それはともかく――近似した個体の強さもばらばらであるが、竜に限ってはその常識はあてはまらなかった。
 須く彼らは強いのだ。クリフも何度かそんな化け物と戦った事があるが、思い出したくない想い出の一つでもある。
(俺とフォールスだけなら、戦ってどうにかすることもできるが……)
 今の任務は魔物を倒すことではない。何より、竜という圧倒的破壊力を持つ魔物の攻撃を、後ろの五人を護りながら長時間防ぐことは不可能に近い。
(まぁ、逃げ切るくらいの時間なら……)
 どうにかなるだろう。クリフの頭が、そう結論を出そうとした瞬間――
「ファイアランスっ!!」
 そんな声とともに、クリフの後ろから二本の炎の槍が放たれた。
「なっ!」
 思わず驚愕の声を吐くが、それが何であるか、クリフは一瞬のうちに悟っていた。というよりも、悟らざるを得なかったもである。
「フォースライクさんっ、何をするんですかっ!!」
 クリフは自分の背後に立っている、この調査団のチーフの方を振り返る。こともあろうに、彼女は目の前にいる竜に正面から対峙しようとしているのだ。クリフにはそれが正気の沙汰であるとは思えなかった。
 熟練した戦士でさえも、連中との戦いは避けたがるのだ。それを真っ向から対峙しようなど、クリフの理解の範疇を越えていた。
 だが次の彼女の一言は、クリフを納得させるには十分すぎるほどの解答だった。
「いくら大きいからと言って、蜥蜴無勢にどうして退かなきゃならないんですっ!」
 そう。彼女は竜というものを見たことがなかったのだ。というよりも、彼女には目の前にいる『これ』が『魔物』であるということすら認識できていないようだった。出来ていれば、それに挑もうなど考えなかったはずだ。
 だがそれも仕方ないことだったのだろう。辺境と呼ばれる場所にでも行かない限り、『魔物』に遭遇することなどまずないからだ。
 しかしそれが解っても、クリフは心の底から湧き起こってくる、やるせない気持ちを抑えることが出来なかった。
「何考えているんですっ! あれは竜ですっ! 素人の勝てる相手じゃ……」
 そう言いかけた時、クリフはエイルの目の前に迫る緑色の物体に気付いた。それは木の幹ほどの大きさはあろうかという竜の尾であった。攻撃を仕掛けたことで既に彼女は標的にされていたのだ。
(間に合わないっ!)
 そう思いながらも、クリフが駆け出すのと、エイルが悲鳴をあげるのは、ほぼ同時だった。
 竜の尾はエイルの身体を横に薙ぎ払うと、圧倒的な力で彼女の身体を弾き飛ばした。彼女の身体は物凄い勢いで宙に投げ出され、弧を描くように後方に飛ばされる。そしてその先には――、崖があった。
(落ちる……)
 エイルはどういうわけか、まるで傍観者のように感じながら、その事実を受け止めていた。崖の下は巨木が連なっており、地面が見えない。間違いなく落ちれば死ぬだろう。
(それも、いいかもね)
 あっさりエイルはそう納得すると、今まで自身が経験をしたことを思い出しながら静かに目を閉じた。
 ろくな思い出はない。思い出されるのは、自分が赤珠族でないという理由だけで、本来なら歯牙にもかけないような連中に馬鹿にされ、ろくに仕事も与えてもらえなかったという悔しい想いだけである。
 今回の仕事にしてもそうだ。こんな危険な所にある遺跡だといっても、目的の遺跡がどれ程の価値のあるのか解ったものではない。今回の任務は、大きな計画を抱えた研究所の上の人間が、何かと噛みつく自分を厄介払いしたかっただけだということも彼女は理解していた。
(ふざけないでよっ!!)
 それが頭を横切った瞬間、彼女は激しい憤りに身体を振るわせた。
(このまま死んだらあの連中の思うつぼじゃないっ! そんなの嫌よっ!!)
 そう思い、その黒い双眼を見開いた彼女の前にあったのは、意外な人物の顔だった。
「クリ、フォードさん?」
 思わずエイルはその男の名前を呼んだ。そこにあったのはエイルの護衛についていた男の顔だ。いつの間にか、エイルの腰には彼の左腕が回され、抱き寄せるように彼女を掴んでいたのである。相変わらずその表情は飄々としたものだったが、彼の漆黒の瞳には確かに強い意志のようなものが込められていた。
「捕まっていてくださいよ」
 そう言った彼の言葉の意図は、そのときは解らなかったが、とにかくじきに落下に入るであろうという予測をたてていたエイルは素直にそれに従う。
 クリフの空いた右手には、二つの人形が握られていた。片方は下半身が馬の人馬の人形。そしてもう一方は少女の形を模した人形である。それほど大きくはないが、片手で掴めるような大きさでもない。クリフはそれを器用に片手で持っていたのだ。
 クリフはエイルが自分の身体にしがみついたのを確かめると、人形の一つを左手に持ち替える。
「ザジタリアス!」
 彼がそう言葉を発すると同時に、左手に持ち替えた人馬の人形は、光を放ちながらその形を弓状に変化させていった。そしてクリフは矢が込められていない弦を引くと、そこには一本の光の筋が現れる。まるで本当の矢が込められたようにだ。
「フォールス、そっちは頼んだぞ!!」
 クリフはそう叫ぶと、引いてあった弦を放した。刹那、まるで大気が収束していくような違和感、そして一瞬の後に、クリフの目の前には一筋の閃光が煌めいた。
 グゴォォォォォォォ
 そして地に響くような低い音、それが竜の悲鳴だと解ったのは、二人が落下に入った後だった。
「――っ」
 エイルは下に吸い込まれるような落下の感覚に恐怖を覚える。地面からここまでかなりの高さがあるのは先程確かめたことだ。一度は死ぬ覚悟すらしたが、思い直した今ではそれは恐怖でしかない。だが。
「大丈夫です。それよりも暴れないでいて下さいね」
 クリフのその言葉が、彼女の心を平静に戻した。そして、再びクリフはエイルの腰に左手を回し、彼女を抱き寄せるように掴む。先に暴れるのを制せられていたためか、それほど好印象を持っていなかった相手であるにもかかわらず、不思議と嫌悪感はなかった。それどころか、何故かひどく安心している自分がいるのに、彼女は気付いていた。
 しばらくの落下の後、クリフは右手に持っていたもう一つの像を握りしめながら、小さく呟く。
「女神の翼をここに。ヴァルゴ」
 彼の言葉に紡がれるように、その人形は光を放ちながら、まるで霞のように変化していく。そしてそれはクリフの身体にまとわりつくと、次の瞬間、大きな二枚の翼に変化していった。
 もちろん、それは普通の翼ではない。淡い光を放つ、というよりもそれ自体が光であるような翼。それが何であるかエイルが考えようとした瞬間、二人の落下速度は突然緩やかなものになった。
「なに?」
 驚きながらエイルは周りを見渡した。それがクリフの背中に生えた翼のようなものの仕業であることは彼女にも理解できたが、その原理が理解できない。もちろん専門でないのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、魔導法と呼ばれる、魔術を含めた不可思議な力を起こす代物は、不可思議ではあっても理屈がないわけではないのだ。探究者としての性分なのか、彼女はそれに酷く納得いかないものを感じていた。
「説明しろなんて言わないで下さいよ。出来ないことはないですけど、それこそ数時間かかりますから」
 彼女の意図を読みとったのか、クリフは呆れた様子でそう言うと、少しだけ落下速度をはやめた。
「どうしたんです?」
 突然、落ちる速さが早まったことに、訝しげな表情でエイルが尋ねる。
「ちょっと、思ったよりも精気の消失が激しいです」
「え?」
 クリフの言葉の意味が解らず、彼女は疑問の声をあげる。目の前にある翼がどのような原理で落下速度を調節しているのか解らない以上、彼女には精気の消耗が激しい理由など解るはずもない。が――
「エイルさん、思ったよりも重い……」
 その一言を理解すると同時に、彼女の右手は握り拳を作り、クリフの頬を殴っていた。瞬間、二人の落下速度が突然速くなる。見るとクリフの背中の翼はなかった。
「きゃぁぁぁっ!!」
 エイルは叫びながら木の中に落ちていった。崖の下は森だったのがせめての救いだったのだろう。まだかなり高い高度から落ちたものの、二人は木の枝に上手く引っかかり、何とか命は取り留めていた。もっとも、お陰で身体中に引っかかれたような傷を作りはしたが。
「い、一体何を考えているんですっ! 魔術の発動中に意識の集中が途絶えれば、それが継続できないのくらい解っているでしょう!」
「体重のことは年頃の女に言う言葉じゃないでしょうがっ!」
「状況を考えて下さいっ!」
「それは貴方の方が先でしょう!」
 そんな会話を発端に、二人は木にぶらさがったまま、激しい口論を続けた。結局、二人が口論にむなしさを覚え、木から降りたのは、もう日が沈んだ後のことだった。





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